疾患モデルマウスを用いた顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの発症過程の解析
吉沢隆浩1, 宮崎大吾2, 高谷智英3, 中村昭則4, 古庄知己5.
- 信州大学基盤研究支援センター動物実験支援部門.
- 信州大学医学部附属病院信州診療連携センター.
- 信州大学農学部分子細胞機能学研究室.
- 国立病院機構まつもと医療センター.
- 信州大学医学部遺伝医学教室.
第71回日本実験動物学会 (京都), 2024/05/31 (口演).
Abstract
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD) は、進行性の筋力低下を呈する疾患で、DUX4 遺伝子の異常発現を原因とする。DUX4 遺伝子の配列を含む D4Z4 リピート配列は、健常者の骨格筋では高度にメチル化され DUX4 が発現することはない。一方で、FSHD 患者では、リピート数の減少もしくはメチル化低下によるクロマチン構造の変化によって DUX4 が発現する。DUX4 タンパクは転写因子として働き、FSHD における酸化ストレスや細胞死、炎症、骨格筋分化抑制等の原因と考えられている。しかし、それらが DUX4 の直接的な作用による反応なのか、組織障害の結果の副次的な反応なのか、生体組織における詳細なメカニズムは不明であった。
本研究では、薬剤誘導型骨格筋特異的ヒト DUX4 過剰発現マウス (FLExDUX4;ACTA1-MerCreMer) を用いた検討を行った。DUX4 の発現誘導 (Tamoxifen 投与) 前を day 0 とし、10 mg/kg Tamoxifen の腹腔内投与による DUX4 発現誘導後 day 1, 3, 5, 7 の各群それぞれで、握力と筋持久力の測定および採材を実施した。
DUX4 発現誘導前 (day 0) との比較で、day 5 で筋持久力、day 7 で握力の有意な低下を認めた。次に、腓腹筋の遺伝子発現を経時的に解析したところ、DUX4 は day 3 で一過性に有意な増加を示した。内在性の Dux には有意な変動を認めなかった。骨格筋分化関連遺伝子の Myod1 は、day 3 で有意な減少を認めた。酸化ストレス関連遺伝子 (Sod2 等) や細胞死関連遺伝子 (Tp53 等)、炎症関連遺伝子 (Tnf 等)は、day 5 で有意な変動を認めた。
以上の結果から、DUX4 の発現から筋機能低下に至るまでには、骨格筋分化の低下が先行することが示唆された。また、組織障害に直接関与すると考えられる酸化ストレスや細胞死および炎症は、DUX4 の発現から遅れて同時多発的に起こることが示唆され、その病態機序との関連性は今後の検討課題である。

